股関節の痛み

股関節の構造

股関節とは、骨盤のくぼみである寛骨臼(かんこつきゅう)と、大腿骨の先端にある大腿骨頭(だいたいこっとう)で構成される関節です。
凹と凸がかみ合う構造になっており、股関節を覆うように関節包という袋があります。
また、関節唇や靭帯によって外れにくい安定したつくりになっています。
股関節は、いくつかの運動軸をもつ多軸関節で、前後・左右の動きだけでなく、開く・閉じる、ねじるといった複雑な動きが可能な自由度の高い関節といえます。

股関節痛の一般的な傾向

股関節の痛みは、整形外科では変形性股関節症、臼蓋形成不全、先天性股関節脱臼、グロインペイン症候群などと診断されることがあります。
代表的な疾患である変形性股関節症は、日本での有病率が1.0〜4.3%とされ、少なくとも100万人以上が悩んでいるといわれています。

一般的には、股関節に負担を繰り返す職業やスポーツ、加齢や体重の増加などが原因となることが多いとされています。
また、はっきりした診断がつかない場合でも、姿勢や動作のクセなどによって、力学的な負担が積み重なり痛みが出ることもあります。

さらに、仙腸関節(骨盤の後ろ側の関節)は、股関節と腰椎(腰の骨)の動きをつなぐ橋渡しの役割があります。
この連動がうまくいかないと、股関節に負担が集中し、離れた場所の問題が痛みとして現れる「関連痛」が起こることもあります。

股関節痛の考え方

股関節痛を考えるとき、

まず、

  • 股関節が硬くて痛いのか
  • 股関節が動きすぎて(ゆるくて)痛いのか

に分けて考えます。

前者であれば、硬い筋肉や関節を動きやすくする。

後者であれば、動きすぎている部分を安定させる。

という処置が必要です。

運動軸のズレ

股関節が硬すぎても、逆に動きすぎても、

関節の「運動軸」にズレが生じることがあります。

運動軸のズレが生じると関節が正常な軌道で動くことができなくなります。

イメージとしては、引き出しのレールが少しズレたまま動いている状態です。

動かすことはできますが、そのたびに引っかかりや余計な負担が生まれます。

これは股関節だけでなく、全身のさまざまな関節にも当てはまる考え方です。

例えば…

たとえば、股関節の後ろ側(お尻まわり)の組織が硬くなっている場合です。

後ろ側が硬くなると、股関節を動かしたときに大腿骨頭(太ももの骨の先端)が本来の位置から前方へずれやすくなり、痛みにつながります。

この場合、問題となるのは単に「硬いこと」ではなく、その硬さによって関節の「運動軸」が変わってしまうことです。

また、筋力の低下や、股関節と隣り合う関節の動きが悪くなることでも、本来の運動軸が崩れます。

疾患による関節の不安定性もある

股関節は、大腿骨頭が寛骨臼に深く収まり、さらに関節を包む膜(関節包)や靭帯、筋肉などに囲まれているため、もともと安定性の高い関節です。

しかし、「臼蓋形成不全」のように大腿骨頭を覆う部分が十分でない場合や、股関節のふちにある股関節唇が損傷している場合には、股関節の安定性が低下し関節に負担がかかりやすくなります。

このように、骨や股関節唇などの構造そのものに問題がある場合は、整体だけで対応するのではなく、医療機関での検査や治療を優先します。

なぜ股関節が痛むのか?を考える

筋肉の問題

股関節はいくつかの運動軸をもつ関節で、前後・左右の動きだけでなく、脚を開く・閉じる、内外にねじるなど、さまざまな方向に動かすことができます。

こうした複雑な動きには、股関節そのものの構造だけでなく、股関節に関わる筋肉の数や種類も大きく関係しています。

股関節のまわりには、およそ23の筋肉があります。

さまざまな方向から多くの筋肉が関わり、さらに長い筋肉や短い筋肉がそれぞれ働くことで、股関節は複雑で細かな動きができるようになっています。

これらの筋肉が硬くなったり、うまく働かなくなったりすると、先ほど説明した「運動軸のズレ」が生じ、股関節の痛みにつながります。

例①:股関節前側の筋肉の問題・骨盤の前傾

股関節の前側には、腸腰筋、大腿直筋、内転筋群など、股関節の動きに関わる多くの筋肉があります。

これらの筋肉が硬くなると、股関節を十分に伸ばしにくくなり、股関節が曲がった状態で固まる「屈曲拘縮」よいう状態につながります。

屈曲拘縮が起こると、股関節が本来の位置で動きにくくなり、関節の一部に負担が集中して痛みにつながります。

また、股関節を十分に伸ばせない分を補うために、骨盤が前に傾いたり、腰の反りが強くなったりします。

その結果、股関節そのものだけでなく、骨盤や腰など、股関節と隣り合う部分の問題からも股関節に負担がかかるようになります。

例②:加齢による姿勢の変化・骨盤の後傾

加齢とともに腰の反りが少なくなり、骨盤は後ろへ傾きやすくなります。

骨盤が後ろへ傾くと、寛骨臼(骨盤のくぼみ)と大腿骨頭(太ももの骨の先端)の位置関係が変わり、大腿骨頭を前側から覆う範囲が少なくなります。

簡単に言うと、股関節の「くぼみ」と「骨の先端」のはまり方が変わるということです。

その結果、関節にかかる圧力が変化し、股関節への負担が大きくなります。

また、骨盤が後ろへ傾き、背中が丸くなると、身体の重心が前へ移動しやすくなります。

そのままでは身体が前へ倒れてしまうため、股関節まわりの筋肉がより強く働いて姿勢を支えようとします。

このような姿勢の変化によって、特に股関節の後ろ側にある筋肉への負担が増え、前述した「運動軸のズレ」が生じ、痛みにつながります。

関節・神経の問題

股関節のまわりには複数の神経が分布しており、股関節周囲で起きた痛みの情報を脳へ伝えています。

股関節に関わる代表的な神経のひとつが「大腿神経」です。

大腿神経には、股関節につながる枝だけでなく筋肉につながる枝もあります。

股関節から痛みの情報が神経を通して伝わると、身体はその場所を守ろうとして、周囲の筋肉を反射的に緊張させます。

これは、痛い場所を動かさないように筋肉を固めて守るという、身体の防御反応です。

しかし、この状態が続くと、緊張した筋肉自体にも負担がかかり新たな痛みにつながります。

股関節に痛みが出る

身体を守るために筋肉が緊張する

緊張した筋肉に負担がかかる

さらに痛みが強くなる

このように、痛みと筋肉の緊張がお互いに影響し合うことで「痛みのループ」が生まれます。

腰から股関節周囲へ痛みが出ることもある

股関節のまわりに痛みがあっても、必ずしも股関節そのものに原因があるとは限りません。

たとえば、腰の関節(椎間関節)の問題によって、股関節のまわりに痛みを感じることがあります。

このように、原因となる場所とは別の場所に痛みを感じることを「関連痛」といいます。

腰の関節が刺激されると、腰だけでなく、お尻や太もも、股関節のまわりに痛みを感じることがあります。

また、先ほど説明した股関節の屈曲拘縮や骨盤の前傾によって腰の反りが強くなると、腰の関節への負担も大きくなります。

そのため、股関節の痛みを評価するときには、股関節だけでなく、腰の動きや押したときの痛みまで確認します。

仙腸関節が股関節痛に関係することもある

仙腸関節とは、骨盤の後ろ側にある「仙骨」と「腸骨」をつなぐ関節です。

仙腸関節のまわりには複数の神経が関係しており、問題が起こると、お尻だけでなく、鼠径部(脚の付け根)や太ももなど、股関節のまわりに痛みを感じることがあります。

そのため、股関節のまわりに痛みがある場合でも、股関節だけでなく仙腸関節の状態まで確認します。

なぜ股関節の痛みが長引くのか?を考える

股関節+骨盤+背骨の連動性

股関節は、骨盤を介して背骨とつながっており、それぞれが連動しながら身体を動かしています。

特に膝が胸につくように、股関節を深く曲げようとする際は、

股関節が曲がる+骨盤が後ろに傾く+腰の背骨が丸まる

という動きが必要です。

そのため、股関節の動きが悪くなると、その動きを補うために骨盤や腰椎(腰の骨)が必要以上に動くことがあります。
反対に、背骨の動きが悪くなったり姿勢が変化したりすると、股関節の動き方が変わり、負担が集中することもあります。

このように、股関節と背骨はお互いに影響し合う関係にあります。

そのため、股関節に痛みがある場合でも、股関節だけではなく、骨盤や背骨の動きまで含めて評価することが重要です。

例①:多裂筋の硬さ

多裂筋は腰の背骨や骨盤(仙骨)の動きをコントロールしています。

多裂筋が緊張すると、腰椎の後弯と骨盤後傾を妨げるため、股関節に負担が集中しやすくなります。

例②:体幹のインナー筋の弱化

腹横筋や内腹斜筋など、身体の深いところにある「インナー筋」の働きが弱くなると、背骨を支える力が低下します。

すると、その働きを補うために、脊柱起立筋や広背筋など身体の表面に近い「アウター筋」が緊張しやすくなります。

こうした筋肉の緊張によって骨盤を後ろへ傾ける動きが制限されると、股関節に負担が集中しやすくなります。

また、インナー筋は仙腸関節(骨盤の後ろ側にある関節)の安定にも関わっています。

インナー筋の働きが弱くなり仙腸関節が不安定になると、仙骨と腸骨をつなぐ「仙腸靭帯」や、骨盤と腰椎をつなぐ「腸腰靭帯」への負担が増えます。

その結果、靭帯やその周囲にある神経が刺激され、骨盤や股関節周辺の痛みにつながります。

例③:内臓器の問題

腎臓の近くには大腰筋や、腰神経叢という股関節周辺に伸びていく神経が位置しています

内臓疲労などにより、腎臓が下垂すると隣接する大腰筋や腰神経叢が伸張され、個々の滑走性が低下して股関節の痛みにつながる可能性があります

R.T整体院の股関節の痛みの考え方

股関節の痛みは、必ずしも股関節だけに原因があるとは限りません。

股関節を取り巻く筋肉・靭帯・神経はもちろん、股関節から離れた骨盤や背骨、場合によっては内臓の状態など、さまざまな要因を考える必要があります。

痛みが出ている場所だけを見るのではなく、「なぜそこに負担が集まっているのか?」という背景まで含めて考えることが、慢性的な股関節痛の改善には非常に大切だと考えています。

股関節の痛みでお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。

股関節の痛みへの論文やエビデンス

文献タイトル

Busquet L.
L’ingéniosité de la coxo-fémorale.
Kinésithérapie Scientifique. 1997;370:7–19.

※関連文献はこちら
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概要

股関節は、骨盤側のくぼみである「寛骨臼」に大腿骨の先端にある丸い「大腿骨頭」がはまり込むことでできています。

歩く、しゃがむ、脚を上げるといった動作では、大腿骨頭が寛骨臼の中で適切な位置を保ちながら動く必要があります。

この論文では、股関節の安定性を骨や靱帯だけで考えるのではなく、股関節の深いところにある筋肉が、大腿骨頭を支える仕組みについても考察しています。

その中で注目されているのが、

  • 腸腰筋
  • 内閉鎖筋
  • 外閉鎖筋

です。

内閉鎖筋と外閉鎖筋は、一般的には股関節を外側へひねる「外旋筋」として知られています。
しかしBusquetは、これらの筋肉は腸腰筋などと協調しながら、大腿骨頭を寛骨臼の中で安定させる働きを持つ筋肉として捉えています。

当院の解釈

股関節の痛みを考えるとき、「筋肉が硬い」「関節が硬い」というだけでは十分ではありません。

大切なのは、大腿骨頭が寛骨臼の中でどのように動いているのかという視点です。

本来、股関節を曲げたり伸ばしたりすると、大腿骨頭は寛骨臼の中でわずかに滑ったり回転したりしながら動きます。

ところが、股関節の周囲にある筋肉の柔軟性や働きのバランスが崩れると、この動きの中心である「運動軸」がずれ、大腿骨頭の一部分に負担が集中することがあります。

Busquetの考え方で特に興味深いのは、内閉鎖筋や外閉鎖筋を、単なる「股関節の外旋筋」としてではなく、大腿骨頭を安定させる深層筋として捉えている点です。

特に内閉鎖筋は、骨盤の内側から始まり、坐骨の近くで方向を大きく変えて大腿骨へ付着します。

外閉鎖筋も骨盤から大腿骨頭の後方を通り、大腿骨の深い部分へ付着します。

こうした特徴的な走行を考えると、これらの筋肉は股関節を動かすだけでなく、動作中に大腿骨頭をハンモックのように支え、寛骨臼の中へ保持する働きにも関わると考えることができます。

これらの筋肉が正常に機能して、大腿骨頭が寛骨臼の中で安定して動けることが重要であるという視点は、当院が股関節を評価するうえでも大切にしている考え方です。

執筆者

谷口 綾

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